ぼくの眠夢物語~#100531

これはある日ぼくが夢で見た他愛も無い物語である。

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無職だった僕は、成り行きで車両事故を専門に扱う保険会社に入った。

雇われて数日後、まだ会社の全体像も仕事の概要もほとんど聞かされていない状態で、ぶっきらぼうな上司は細かい指示もせずに、いきなり僕に顧客を手配した。というより無理やりお前がやれよという押し付けに近い指示だった。

唯一僕が先輩から預かった仕事道具は、顧客との初コンタクトから保険適用までのアウトラインを簡単に記載されている顧客向けパンフレットのみだった。もちろん、資料を渡した先輩もそうだが、僕の担当トレーナでもある上司が初コンタクトから何をどう説明すればいいのか、たとえば常套句などはどのようなものがあるのか、一切がっさい何も教育されていないことは言うまでも無い。

早速、顧客の男性と電話で簡単なやり取りをして、今から15分後に現場で落ち合うことにした。この日の空模様はあいにくの雨だった。僕は普段ならまず使うことのない透明なビニール傘を準備して現場に向かった。

何も知らずに当たり前のように担当営業をアサインされた顧客の男性は、僕より少し年上の作業つなぎを着たさえない人だった。傍らにはやはりさえない顔をした女性が座っていた。おそらく一緒に同乗していたのだろう。

出し抜けに顧客の男性は挨拶がわりに名刺を差し出してきた。もちろん保険屋に顧客が名刺を差し出す必要など無いことは僕にもわかっていたが、実は会社に入ったばかりで名刺をまだもらっていないのです、などとは顧客には説明出来ない。

担当営業として出だしからかなり印象が悪いことを先輩のせいにして頭で解釈し、僕はしかたなく今日はあいにくの天気と込み入ったスケジュールの関係で名刺を忘れてきてしまったのだと説明をした。

保険営業をするからにはせめて名刺ぐらい自分から上司に言って手配するべきだったと反省し、ばつが悪い雰囲気を冷や汗とともにやり過ごした。

僕と男性顧客とその彼女は小さな喫茶店に入り、挨拶も手短に済ませ早速パンフレットをもとに今後の流れを説明するところに差し掛かった。このとき3人とも机の上に広がっているパンフレットに初めて目を通しているという事実を、僕は喫茶店のマスターにだけは悟られまいとなぜかたかをくくっていた。

いつか僕が生命保険に加入する際に、担当営業の女性から受けた説明の様子を思い出しながら、僕は男性顧客とその彼女にありったけのポーカーフェイスを披露しながら、パンフレットに書かれている概要を説明した。

ここで僕の応用力が試されたのは、僕が生命保険の女性営業から受けた説明はあくまで加入時のものだったが、いま僕が営業として担当顧客に説明しなければならないのは、保険の適用対象となる事故が実際に起きてしまった際に説明しなければならないものであったという点だった。

名刺を忘れてくるという冒頭の失敗をさらしたぐらいだ、自分の目の前にいる担当営業はおそらく不慣れな新人だろう、そう思っているに違いないと半ば強引に確信した僕は、誰もが考えればすぐにわかるような、事情聴取から現場検証を経て相手方の保険屋と協議し結果が出るまでにはおよそ早くて数週間だろうという説明を言い慣れたふりをしながら、出来るだけ男性顧客ではなくその彼女に相槌を送った。

説明も架橋に差し掛かったところで、ふと、パンフレットのとあるページに担当営業である僕の氏名が記載されていることに気づいた。色々な事情で白黒のコピー紙で後付けされている自分の名前を数秒間ながめてから、僕はそこで我にかえり、まだ自分の名前を名乗っていないことに気づいた。

最後のポーカーフェイスを用意して、慌てて担当営業である自分の名前をパンフレットを指でさし示しながら僕はあらためて目の前の二人に自己紹介を始めた。さすがにこのときばかりは男性顧客はおろかその彼女にすら、僕は相槌を送ることは出来なかった。

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夢から覚めた僕は、今日もくだらない一日が始まるのだなと思うと、妙な違和感を覚えた。

posted 2 years ago